幸せという病気



そして竜司はただ黙って頷く。


いつもと変わらない朝のはずだった。


そして、全てが全く変わってしまった夜を迎えている。


竜司はすぐに病院へ向かって走っていき、武は弘樹を呼び、その車の助手席で夜の月を見つめていた。





走っても走っても月が追ってくる。




思い出していた。




幼い頃、遥と二人で遊んだ事を。

遥が弟だったらよかったと思っていた事。

どこへ行くにもついてくる遥をうっとうしく思っていた事・・・。





今宵の、どこまでも追ってくる月を見て武は、遥の笑顔が頭から消えなかった。





弘樹はそんな武を家まで送り届ける。


そして、武に話し始めた。



「武・・・まだ発病した段階だ。死ぬって決まったわけじゃねぇし、もともと、幸せ病なんてどういう病気かもわかんねぇんだ・・・ある日突然治るかもしんねぇんだぞ?その竜司ってやつ側においてたら逆にまずいんじゃねぇかな・・・いつまでも好きでいちまうしさ・・・」


すると、武の中で一つの基準が出来ていた。


「いいんだ・・・あいつずっと、恋愛出来ないでいたんだよあの日から。やっと人を好きになれたんだ。あんな幸せそうな遥久しぶりに見てさ、俺、ほんとに嬉しかった・・・あいつだって別にバカじゃねぇんだし、もしかしたらこうなるの分かってて恋に歩き出したのかもしんない・・・それだけ恋をしたかったって事じゃなくてさ、死んでもいいくらい楽しくて仕方なかったんじゃないかな・・・まぁっ、まだまだ若いんだよ」











それが正解なのかも・・・











間違いなのかもわからない・・・。












武はその時、正当化する事でしか・・・自分を助ける事が出来なかった・・・。