空はオレンジ色に染まり、飛行機がどこかの空港へと、遠い空の向こうへ消えていく。

遥はそれを見つめていた。

だが、遥が見つめていたモノは飛行機では無く、そのずっと向こうに消えていった家族の過去だった。

いつでも空は、昼と夜の痛み分けを繰り返している。

それはおそらく人間の痛み。

夕焼けはその痛みの焼け跡かもしれない。

そして人が家路に帰って行くのは、その淋しい焼け跡に、安らぎをそっと添える事が出来るからかもしれない。


遥はそんな夕焼け空に甘え、家へと帰った。



春の穏やかな空間に、遥の髪に反射した綺麗なオレンジ色とその残像が映え、時間はこのままゆっくり過ぎていくかのようにみえる。

しかしその日、人々の心臓の鼓動は、無差別に見えない何かによって乱されていた。



一つ一つ・・・生きる事を繰り返している全ての人間の『命』に対し、その何かが「レ点」を付けながら鼓動の波を試し、判別しながらうごめいていた。



その時、まだ人類は誰も知らない。



知らぬうちに「生」と「死」の分別をされている事を・・・。




そして三十分ほど歩き、遥が二人より先に家に着くと、家の周りを夕飯のいい匂いが漂う。

遥は「ただいまぁ」と、少し疲れた声で言いながら靴を脱ぎ台所に向かう。


すると祖母が一人、夕飯の仕度をしていた。


武と香樹がいない事を不思議に思い、祖母は二人はどうしたのかと遥に尋ねる。