幸せという病気

そして遥は、夢という意識の断片を自ら切り離し、誰もが知らない未知の空間で一人彷徨う事を選んだ。


それは『死』という世界・・・。






その遥の強い願いは、父親を通して武の体へと伝わる。





だが、一方の父親はその時、最後の命の炎を遥へと燃やしていた。










《遥・・・おまえをまだ・・・死なせやしねぇからな・・・》









遥の命は、今にも千切れそうな父親の微かな命の線で繋がれ、死へと向かうその魂を引き止められる。



その頃武もまた、夢の空間を彷徨いながら父親の声を耳にした。







「・・・親父?」

「武、すまんな・・・何もしてやれなかった」

「いや・・・そんな事ねぇよ。あの時遥に会いに来てくれたじゃん」

「あれは・・・少し恥ずかしい事をしてしまったな」

「何で?」

「あんな真似・・・性に合わねぇじゃねぇか」

「ハハハッ。いつまでも堅い頭してんじゃねぇよ」

「ふんっ。それから武・・・幸せ病は必ず治る。おまえはもう気付いているかもしれんが・・・」

「・・・」

「幸せになって欲しいと願う強い想いで、この病気は消し去れる」

「幸せで病気になって死ぬっていうのに、変な話だな・・・」

「それでももっと強く幸せを願うんだ。幸せは終わりじゃない・・・幸せは始まりだ」

「親父・・・それを掲げて選挙出なよ・・・」

「しかし必ずその反動がやってくる。遥がそうだ・・・相手の幸せを願った途端、また倒れてしまった・・・」

「うん・・・」

「本当は親である俺が助けてやりたい所だが・・・俺はもう生きる力が残っていない・・・だからもうお前達の幸せ病を完全に治してやる事が出来そうもねぇんだ・・・やっぱり結局なんでもかんでも、元気に生きてるうちにって事だなぁ」

「じゃあその元気なうちに願ってくれればよかったじゃねぇか」

「バカ。俺はずっと願ってたよ」

「・・・何を?」

「香樹の幸せをだ」

「・・・香樹の?」