幸せという病気

「後悔して欲しくないから・・・行こ?おばあちゃんっ」


「でも・・・」


「大丈夫。きっと今、お父さんが武と遥ちゃんを守ってくれてる・・・だから心配しなくても大丈夫っ。私も行くから。ねっ?」


「・・・うん・・・ありがとう」





やがて病院にタクシーが着くと、祖母とすみれ、そして香樹の三人は父親のもとへと向かった。



一方、それを知らない父親は、意識の闇の中で武と遥を探す。










―――武、遥・・・。今まで苦労かけたな・・・こんな父親を許してくれ・・・何もしてやれなかった俺のせめてもの気持ちだ。少しの間でしか生かす事が出来ないが・・・おまえらを一瞬でも幸せ病から守ってやる―――








そして父親は、最後の決意を握り締め、遠い彼方に存在する遥の意識へと語りかける。


すると遥は、暗闇の中で彷徨いながら父親の声を追った。









いつか、遥が疑問に感じた事がある。







《幸せ病ってね?倒れると・・・いっぱいいっぱい夢を見るんだぁ・・・でもなんか・・・その夢は現実と繋がってて・・・そこにはちゃんと私の意志が存在してるの・・・それって何か意味があるんじゃないかなって・・・》






それには確かに意味が存在していた。


幸せ病で意識を失くした場合、夢と現実の境が無くなり、夢の中でも会話が出来る。

また、それにより・・・夢の中での、よほどの強い想いや願いは、正夢のようにしっかり形となって現実へ降り注ぐ。

そして何よりも、生きる力を持った人間の、心の中にある本当の『幸せを願う想い』で・・・大事に想う人の幸せ病を吹き飛ばす事が出来る――。