その頃、何も知らずに下校する香樹は、顔を赤らめながらあゆみに話し掛ける。


「あゆみちゃんっ。こっちから帰るとね?早道なんだよ?」

「そうなんだぁ。香樹君はなんでも知ってるねっ」

「ん~ん。僕、知らない事ばっかだよ?でもね、いっぱい教えてくれるの」

「誰がぁ?」

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、おばあちゃんも、すみれ先生も。あと、竜司兄ちゃん」

「だぁれ?」

「僕が尊敬してるお兄ちゃんだよぉ?」

「尊敬?」

「優しくて、でも強いの。僕のお姉ちゃんが好きになった人だから」

「へぇ~カッコイイんだねっ」

「うんっ!」




それを他所に、伊崎家では武の携帯が鳴り響く。

電話を取ると遥が泣き声で動揺している。



「お兄ちゃん・・・竜司が・・・倒れて・・・」

「竜司が・・・?」

「今、病院に・・・」

「遥?しっかりしろ?すぐ行くから」

「うん・・・」



そして武は、事情を居間にいる祖母に伝えた。

不吉な予感から青ざめた顔の祖母に、武は落ち着いて説明する。



「竜司が意識不明で・・・また運ばれたらしいんだ」

「・・・竜司君が・・・?」

「・・・香樹は・・・まだ?」

「まだ帰ってきてないよ・・・」

「じゃあ・・・先に病院行ってるから、後で香樹連れて来てくれねぇかな」

「わかった・・・武?」

「ん?」

「きっと・・・大丈夫だから・・・」

「・・・あぁ」




祖母にそう伝えると、そのまま武は病院へと駆けた。

何か・・・全てが終わってしまうそんな予感を、必死に取り払いながら・・・。