「私も、遥ちゃんを応援してるよ?」

「ん?」

「応援してるから・・・幸せになろうね?」

「うんっ。ありがとぉ、すみれさん」

その穏やかな笑顔を見て、桜が一片、その病室の窓から入り込む。
また、その頃茂は一人、墓に水をかけ手を併せていた。
そこにもう一人、ある男が現れ茂に話し掛ける。


「波川さん・・・お久しぶりです」

茂が振り返ると、その男は深々と頭を下げた。

「佐久間・・・元気にしてたか」

「えぇ。お陰様で」

「マルボウが上ってこれないように、墓をもっと山の上に建てるんだったなぁ」

茂が冗談を言いながら起き上がると、男は武の父親について聞き出す。

「波川さん。伊崎は・・・今・・・」

「あぁ・・・もう、長くは無いみたいだ・・・」

「そうか・・・亡くなる前に・・・もう一度会っておきたかったのだがな・・・」

男がそう言うと、茂は顔をしかめて話し出した。

「・・・伊崎は善と悪・・・その両方に支配されて生きている。現役時代、若くしてあれだけの派閥を持った男だ。反対に当然のように知らぬ所で蚤も湧く。本当の悪になりきれなかったのもまた・・・事実で残念な事だな・・・」

「いや・・・伊崎は善を選んだ・・・それが全てで・・・この世にそれ以外は何もない。それが真実だ」

「そうかも知れんな」

茂はもう一度その場に座り、墓に花を添えた。
男が遠くを見つめながら続ける。