幸せという病気


「・・・もしもし?」


「・・・あっ・・・ごめん・・・寝てた・・・よね?」







着信は、すみれだった。








「いや・・・すみれこそ寝てたんじゃないの?」



「ん・・・?今日はスーパー寄ってて・・・今、その帰りだよ?・・・武は?」



「・・・俺は・・・」




耳を澄ますと、ポツポツと傘に当たる雨の音とは別に、武の背後からコツコツとヒールの音が聞こえる。




「・・・もしもし?武?」




すみれは電話口で武の名を呼ぶと、公園の前で小刻みに光る携帯のライトに気が付いた。






そして武がゆっくりと振り返り、二人は携帯を片手にしたまま目が合うと、互いに胸が高鳴る。




「こんばんわ・・・」




「あっ・・・こんばんわ・・・」







武が挨拶をすると、すみれもまたそれに答えた。


沈黙を作る事も無く、すみれが話し掛ける。









「どうして・・・いるの?」




「・・・いやっ・・・探し物・・・?」





その時、二人には雨の音が全く聞こえていない。





「え・・・何を?」





「・・・ん?・・・大事なもの・・・」





「・・・大事な・・・ものって・・・?」





「・・・俺の大事なもの・・・探しに来た」





「え・・・?」










そして五メートル程の距離を保ったまま、電話越しに武は、すみれに話し始めた。