幸せという病気


「お兄ちゃんっ。今日ねぇ、学校で画用紙に絵を描いたぁ」

「へぇ~。どんな絵?」

「まだみんな出来てないから、また来週も描くんだよ?」

「そっかぁ。え?で、どんな絵?」

「僕、海へ行った時の絵を描いた」

「海?」


すると香樹は、一緒に海へ行ったメンバーを一人一人、指折り数えだした。


「僕とぉ、お兄ちゃんとぉ、お姉ちゃんとぉ、おばあちゃんとぉ、竜司兄ちゃんとぉ、すみれ先生と行った時のやつ」

「あぁ、こないだの冬に行った旅行だろ?」

「うんっ」

そして笑顔で祖母が、徐に香樹に尋ねる。

「香樹ぃ、それでテーマは何だったの?」

「家族だよ?」

武は一瞬、鳥肌が立った。

それを聞くと、祖母が尋ねる。

「・・・香樹にとっての家族は・・・その六人なのかい?」

「ん~・・・ホントはお父さんとお母さんがいたらいいなぁって思うけどね?僕、みんながいるから淋しくないよ?」

「・・・香樹は強いなぁ」

「だから僕・・・」

「ん?」

黙って下を向いた香樹に、優しく武が聞き返した。 
  


「僕・・・ずっとみんなで仲良く暮らしたい」


「うん。だから海行った時の絵を描いたのか?」


「・・・またみんなで行ける?」


「もちろんだよ」


「じゃぁ夏休みに行きたいっ!」


「よしっ!じゃあ勉強頑張ってやるか?」


「やるっ!」




時に、大人は子供から教わるものがたくさんある。

小さな世界から幸せを正直に見据え、そして感じるその透き通った目からは、必ず大事な人を優しく見つめる強さがある。

武は、小さな体から放たれる、その大きな願いをしっかりと胸に刻み、眠りについた。