「あのね、笑った顔を描きたいの」
「え・・・どうして?笑った顔を描いていいよ?」
すみれはその質問に違和感を感じ、児童に聞き返す。
「だってぇ、お父さんとお母さん・・・仲が悪くて喧嘩ばっかりだもん」
その言葉で、すみれは気持ちがグラついた。
そして気を取り直し、笑顔で児童に問いかける。
「あゆみちゃんは、笑った顔を描きたいんでしょ?」
「うん・・・」
「・・・じゃあ・・・どうして笑った顔を描きたいって思ったの?」
「ん?・・・だってお父さんとお母さんがね?ずっと仲良しでいてほしいから・・・」
児童が申し訳なさそうにそう言うと、すみれは体の芯が熱くなった。
「先生、あゆみね?・・・お父さんもお母さんも二人共大好きだからね?・・・仲良くして欲しい」
「じゃあ・・・お父さんとお母さんとあゆみちゃんが三人共、元気に笑ってる絵を描こうっ」
「うんっ!」
すみれは笑顔でそう言った後、やりきれない気持ちになる。
自らが投下した青白い閃光が、自分の中の角ばったモノを全て崩壊させた。
やがてすぐに、堕ちた闇の片隅から自然と生まれ、すみれの中でけたたましく、うねり狂い出したもの・・・。
それは中絶という選択だった―――。
