幸せという病気

「・・・ワシが思うに・・・人間は思い込みによってどんどん自分を変化させていく生きモンだ。辛いと思えば思うほど本当に取り返しのつかない状態にまで堕ちていく・・・ダメだと思えば思うほど死にたくなる・・・所謂、悪循環ってやつだ・・・しかし悪い事にも終わりはある。必ず・・・終わる日がやってくるんだ・・・」


「・・・そうかもな」



「じゃあ・・・良い事にも終わりはあると思うか?」



「・・・さぁ・・・」



「生きていれば・・・良い事に終わりなんてものは無い」




「・・・」




「生涯・・・せき止められても、踏みにじられても、死ぬまで必ず形を変えて続いてく・・・まぁこれがワシの持論だよ」





「・・・やたらカッコイイじゃん」




「ハハハ。でも本当の事だ。幸せってなんだろうなぁ。もう一度考えてみるのもいい」





「俺にそんな時間ねぇよ」




武がそう言い、親指でタバコをはじき、灰を灰皿に落とすと、茂はコーヒーをかき混ぜ、そのまま続ける。



「武・・・良い事があればよ?・・・この先もっと良い事があるかもしれないって・・・人間、そう思いたくねぇか?」



「・・・そうだな」



「それはワガママでも欲深いわけでもなんでもなく、向上心だ。特におまえらのような若い奴らは、もっともっとそう感じて生きて欲しい」



「・・・あぁ」





「幸せになる事を・・・諦めるな」




そして茂はスプーンを受け皿に置き、コーヒーを口にした。

武は黙って微笑み、隠しきれない悲しさをタバコの煙でごまかす。