幸せという病気


茂は武を探し、席に腰掛けると、武の顔を見てすぐに顔色の悪さを指摘する。


「おまえ、顔色悪いぞ?」

「遅いから待ちすぎて体調不良だよ」

「何言ってんだ。ワシも何かと忙しくてな。なんだおまえ、幸せ病か?」

「・・・平気で聞く内容かよ」

茂はメニューを見てホットコーヒーを注文し、タバコに火をつけた。

「おまえは早かれ遅かれ発作が出るとは思ってたけどな。そうだ武・・・会っていきなりこんな事を言うのもあれだが・・・」

「なんだよ」

「・・・親父さん。もう長くはない」

「・・・そうか」

茂が父親の事を伝えると、武は少し間を置いてアイスコーヒーを飲む。

「何だ・・・病気だって知ってたのか?」

「いや、はっきりとは知らねぇけど・・・親父のやつれた顔見りゃなんとなく想像はつくよ」

それを聞き、茂はタバコの煙を上へ向け大きく吐き出すと、顔をしかめて話し出した。

「・・・子供達には黙っておいてくれと言われたんだがな・・・」

「・・・親父らしいな」

「あの人は、少し生真面目すぎる・・・肩の力を抜く事が出来ないんだ」

「あぁ・・・」

「しかしなぁ、そのパワーはすごいモンだよ・・・力量ってやつだろうなぁ、あれは」

「・・・そうかねぇ」

「本当は認めてるんだろ?親父さんの事」

「・・・まぁ・・・」

「もう一度会ってやったらどうだ?」

「あぁ」

「それから・・・幸せ病の事だけどな」

「今日はまたよく喋るなぁ、おっさん」

「バカ。定年迎えたら誰でもこうなるよ」

「あっそう?で、何?幸せ病がなんだって?」


武は笑ってそう言うと、タバコに火をつける。

反対に茂はタバコを灰皿に落とし、三、四回、ポンポンと叩き消した。

そして一つ咳をすると、注文したコーヒーがやってくる。

その熱いコーヒーの湯気と、上手く消し損ねたタバコの煙が天井へと駆け上がり、その苦く、くせのある空間で茂はゆっくりと言葉を投げかけた。