幸せという病気




「親父なら・・・真っ先に遥と香樹の事・・・考えると思う」

「武・・・」

「なんか・・・結局、幸せになったら死ぬとかなんとか言ったって・・・世間はほとんど変わってねぇ・・・」

「・・・世間?」

「うん。誰がどこで何をして死のうと・・・それに触れずに生きてるモンや、壊れてない形は当たり前のようにそこに存在してる・・・」

「・・・」

「俺はこの世界の中心じゃない・・・だけど・・・俺の中心にはみんながいる・・・まずは、そっからだ。それを大事に出来なくて男は張れねぇ・・・」

「ふふっ。そうかい」

「・・・だから、絶対に守るって決めた」

「だけど・・・ホントに体・・・」

「大丈夫だから。俺より、遥の心配してやってくれ」

「武は、いいお兄ちゃんになったねぇ」

「ハハッ。昔からそうだけど?」

「ふふふっ。そうだったねぇ」

そして電話を切った後、病室へ戻り着替えようとすると、そこに竜司が訪れた。

「武さん・・・体は・・・」


竜司の気遣いに武は、笑顔で大丈夫だと答える。

すると、竜司は普段着に着替えようとする武に疑問を感じた。

「・・・どっか行くんですか?」

「え?会社だよ」

その言葉に竜司は戸惑う。

「会社って・・・そんな昨日倒れた人が仕事なんて無茶ですよ!!」

「まぁそんな大きい声出すなって」

「・・・すいません・・・でも・・・」

「おまえも俺の中心だよ」

「えっ?」

「おまえの中心は誰なの?」

「俺の・・・中心?」

「そう。いつも心の真ん中にいる人」

「・・・遥・・・ですかね」

「じゃあこんなとこいないで遥んとこ行け」

「でも・・・」

「おまえが止めたって俺は行くぞ?」

「・・・」

「ありがとな」

「・・・はい」




そして武は、病院を出て行った。

何かを変える為では無く、ただいつも通りに・・・。

午後になると、武は休憩時間を利用して茂と待ち合わせていた。

暗く小さな喫茶店でアイスコーヒーを注文し、雑誌を広げる。

特に喉も渇いていないのに半分程を一気に飲み干すと、入り口の鈴の音を鳴らして茂が店内に入ってきた。