幸せという病気




それを聞き、涙を噛み締めながら父親は茂に連れられ階段を降りて行く。

そして病院を出ると、パトカーと野次馬達が父親を待ち構えていた。




「脱走らしいよ・・・」





そんな声の中、遠くから息を切らした竜司の声が聞こえる。














「まだやり残してる事あるじゃないすか!」











振り返ると、父親の目線の先には、大きく成長した香樹の姿があった――。










「・・・香樹・・・」









竜司は抱きかかえていた香樹を降ろすと、香樹の目線に合わせて笑顔で話す。










「香樹・・・お父さんだよ?」











その瞬間、茂は父親の手錠を外し、呟いた。




「ワシはもう定年だからよ・・・?」




茂に深々と頭を下げ、父親が香樹のもとへ走ると、竜司が香樹の背中を静かに押す。




















忘れた事は無かった。




















ひと時も・・・。






















そして父親は、六年間・・・会いたくても会えなかった息子を抱きかかえ、強く抱き締める。



父親の手はその時、子供達を想う、いつかの優しく包み込む大きな手に戻っていた・・・。





「今、何年生だ?」


「もうすぐ二年生・・・」


「そうかぁ!」









そんな姿を遥は、暗い病室から見守りながら涙を流し、やがてもう一人、最後に現れた武は、父親に向けてたった一言、言葉を発する。




















「ありがとな」














父親は力強く頷き、武に向けて小さな箱を投げた。