幸せという病気

茂が遥の病室に入り、父親に向けて静かに言葉を発する。




「伊崎・・・仕事というのは、人の心を無くす事なんかなぁ・・・」



「波川さん・・・」



「・・・自分では変わっていないようで、ワシ達はいつからか変わってしまっているのかもしれん・・・ワシの仕事は・・・正しい事をして来たんだよな・・・?」



「・・・」



「・・・そうだと言ってくれ・・・」



「・・・」



「・・・そう思わないと・・・やりきれない・・・」





茂のその言葉に父親は遥の頭を撫で、立ち上がった。








「待って!」








たまらず、遥は父親を呼び止める。

しかし父親は遥の言葉を遮るように部屋を出た。









「・・・行かないで・・・」









遥はベッドから降り、追うように部屋の外に出る。









そして暗い病院の廊下で、遥はたった一人の父親に向けて精一杯叫んだ。






































「お父さん!!また一緒にご飯食べようね!!」



























きっと・・・。










その瞬間は、もう来ない・・・。










わかっていても、叶わなくても・・・。
















『さようなら』を言うよりは良かった。












そしてそれが優しい遥の、父親への精一杯の愛情表現だった。