電車を降りて少し歩き、すみれの家の前で武は立ち止まる。 無心だった――。 すみれの携帯が鳴る。 「・・・もしもし?」 「武だけど・・・」 「うん・・・」 「今、家の前なんだ」 「家って・・・」 「先生の家の前だよ?」 「え・・・」 「会いたい」 「・・・うん・・・」 午後十時過ぎ。 気温は氷点下を回り、すみれはコートを羽織る事も忘れていた。