一匹狼と無邪気なワンコ



 再度頭を上げると、あの狼の笑顔で――俺を見ていた。


「そうか、君が――」


 俺は途端に胸がいっぱいになって、右手で鼻と口をおさえた。


 涙がその右手を伝った。


 ご愁傷様です――なんていう決まり文句を言えなかった。


 胸がつまって、苦しくて、なんて言っていいか分からなくて。


 胸ポケットにしまってあったハンドタオルを取り出し、涙をぬぐう。


 ぬぐってもぬぐっても、止まらない。