大粒の涙を流している弘樹を尻目にマダムはカウンターに戻っていった。

(マダム)「よし、商談だ。金縛りをといてやりな。」

(蛇眼のジョニー)「わかった。」

フッ!!

(弘樹)「わ!!」

弘樹の金縛りがとけ、弘樹はふらつきながらも自由に動けるようになった。

自由に動けるようになったのだから先程の宣言を反故にして逃げ出そうとすることもできたかもしれない。

だが弘樹はそれをしなかった。

確かにそうして抗ったところで、すぐに金縛りを受けて今度こそ間違いなく殺されると容易に想像できる。

しかし弘樹は涙を流すばかりで抗う意志さえも持つことはなかった。

(マダム)「ほら!!さっさと商談するからこっちに来な!!いつまでも泣いてんじゃないよ!!」

マダムが怒声をあげても弘樹は泣いたままだった。

弘樹は真面目な正義感だけが取り柄で生きてきた。

そんな弘樹が殺し屋をやることになってしまったのだ。自分の命惜しさに。

弘樹は恐怖もあったが、何より正義を捨ててでも生きたいという欲望に負けた自分が許せなくて泣いていた。

今の彼のその事に対するショックは計り知れない。

そして彼は小一時間声を殺して泣き続けた。