コイアイ〜幸せ〜

「松本様、到着いたしました」


爺さんが車を止めて、俺に声をかける。


随分と懐かしい夢を見てしまいましたね。


両親と会わなければいけない事が、俺にこんな懐かしい夢を見せたのだろうか。


「わたくしはここでお待ちしております」


爺さんとは、昔から付き合いがあった。
あの、吐き気がするような懐かしい出来事を知っている一人だ。
もちろん荒れていた頃の自分も見られている。


爺さんから見れば、今もあまり変わらないのでしょうね。


俺は揺るんでいたネクタイを締め直す。


「松本様は、少し、変わられましたね」


爺さん、俺の心を読んだのですか。


「以前より笑顔が増えたように思います」


「それは目の錯覚ですね、老いとは恐ろしいものです。仕事を続けるのは、考えた方がいい」


爺さんに嫌味を言ってから、ドアを開けて会場に向かおうとした。


「ふぉふぉっ」


爺さんから笑い声が聞こえる。


「やっぱり変わられましたよ。以前なら、わたくしの言葉など聞き流しておりましたから」


まったく、食えない爺さんです。
そうですか、そんな変化も悪くないのかもしれません。
俺は爺さんに軽く会釈を返した。