コイアイ〜幸せ〜

「お迎えに上がりました。松本様、お急ぎ下さい。親族会に遅れてしまいます」


会社を出ると、一台の車が止まっていた。
俺の姿が見えると、そこから、運転手の佐々木の爺さんが降りてくる。


「あぁ、わかってますよ。わざわざ迎えに来なくてもよかったのですが」


爺さんは一度、俺に頭を下げたあとに後部座席のドアを開けた。


「よいのです。これがわたくしの仕事ですので」


「逃げませんよ、もう子供ではありませんからね」


好々爺とした態度に、寂しい雰囲気が混じる。


「わたくしとしては逃げて頂いても構いませんのに、こうして迎えに来なければいけない仕事が、時々嫌になってしまいます」


「爺さんは苦労性ですね」


「松本様も、でございます」


ネクタイを緩めながら、俺は車に乗り込んだ。


海外に行った所でついてまわる。
完全に逃げることは出来ないことを俺は知ったんだ。


もう二度と逃げないさ、俺が受け入れたことなのだから。


「いいですよ、出して下さい」


俺は、無感情に声を出す。

目的地に着くまでは時間がある。


しばらくは、休みたい。
俺は、ゆっくりと目を閉じた。