コイアイ〜幸せ〜

彼女が俺に話しかける、今はそれで充分だ。


恋をしたいわけではない、愛されたいわけでもない。


山下さんがいると、とてもね、仕事がはかどるんですよ。



廊下を会釈しながら通り過ぎる女子社員たちに軽く挨拶を返し、俺はボンヤリと歩いていた。


「お疲れさまです。松本さん」


執務室に帰る途中、秘書の古巣を通ると、社員の市田美波とすれ違った。


「こんにちは、市田さん」


市田は少し立ち止まった。


「どうしたんですか?」


俺は、この女の身体を知っている。


「私の勘違いならすいません、松本さん、なんか元気がないのかなぁって思っただけなんです、なんか珍しいかなぁって」


数回食事をして、身体を重ねただけの存在の彼女。
その彼女に、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。


「いろいろと大変ですから。大丈夫です、疲れてはないですよ」


仮面を付けた自分が、当たり障りのない返事を返しているのを、もう一人の俺が遠くの方から冷静に見つめている。


この感覚は、彼女達と過ごす時に感じることが多かった。


面倒なことはうんざりです。
貴方達が勝手に俺のことを評価するのは、気分が悪い。