ぼんやり、思う。

何処か、全部が遠くで、自分だけが違う処にいるような、そんな感じがした。



「……応答が無いんだけど。倒れてるし」

「倒れてるんじゃなくて、縁側で横になって庭の桜を眺めてるのよ。
分かんない?」

「分かんない…、まぁとにかく、倒れてる訳じゃないんだな?」


そう声がすると、一人の男の人が、横になる私の顔を覗き込んだ。

蒼空と桜で満たされていた私の視界に、現れた。
 
焦茶色の髪に端正な顔立ちの男の人。
口元には煙草をくわえ、穏やかな眼は心配そうに私を見ていた。
 

 誰…?


「ちょっと! 青磁っ、煙草!」

「あっ、ああ……ごめんな、伽羅ちゃん」
 
そう云って、その男の人は私から遠い方の手に煙草を持つ。
遠くでくゆる、煙。
 

匂いだけが、届く。
 

不思議と嫌な匂いじゃなかった。
 
 どこか懐かしい…


 へんなの、煙草の匂いに憶えなんて無い筈なのにー