茜は林檎酒を持つ手に、力が入る。

「長く離れていた兄妹だけど、とても仲が良かったらしいわ。
だから……見たでしょう?
今日の伽羅ちゃんを。
半年前に和季君を亡くしてから、まるで生きる力を失ったかの様になってしまった」


「ずっと、…一宮がいなくなった去年の秋から、伽羅ちゃんは、あの状態だった?」


「ええ…ずっと母親の伽代さんが面倒見てたんだけど、伽代さん自身ももうぼろぼろ。
息子を亡くし、娘が倒れ……
もう見てられないって、ウチのお母さんが伽羅ちゃんを少しの間預かる事にしたのよ」 

 
茜は、夜空を見上げる。
下弦の月が、淡く、儚く、見えた。

青磁は何も言わず、煙草の煙を眺め憶い出す。




あの日、
黒い服で訪れた一宮の最後を見送る場所で、

何も言わず、
泣く事も無く、
うずくまり、
一宮が眠る棺の端を握り締めていた、黒服の少女。


長く綺麗な黒髪が印象的だった。

その彼女が、伽羅だったのだと。