彼女は今にも敵を追って、飛び出していきそうだった。が、敵の真意がどうあれ、今のところその正体も居場所も定かではない。

「だが、いったいどうする気だ? 敵が何者でどこにいるかもわからないのに」

「ラムルダ、あんたって、頭いいようで悪いのね。グレムリンを使い魔に飼っている魔法使い。しかも魂盗みを使えるような魔法使いなんて、私の知っている限りでは、一人しかいないわ」

 彼女は、軽々と愛用の魔法のほうきの柄に飛び乗ると、空中で彼を振りむいた。

「魂戻しの魔法の準備をしておいてね。いますぐ取り戻してくるんだから」

「メディア、やめるんだ」

「ふん」

 彼女は鼻でせせら笑った。

「あんな弱虫に負ける私だと思うの。私はこれでもドラゴン退治の魔女なのよ」

「メディア!」

 ラムルダは止めようとしたが、果たせなかった。彼女は一直線に北にむかって、飛び立っていく。

「まったく」

 彼は思わずため息をついた。

 あの短絡思考はどうにかならないものか。

 ウィルランドの北の果て、『果ての森』と呼ばれる森のすぐ側にある古城。そこに住まう魔法使いヴィゼは策略をめぐらして、人を陥れたりするようなタイプではない。使い魔を単なる手駒として使うなどとても考えられない。その誠実な人柄ゆえに、『果ての森』の番人として、あそこに任じたのだ。