王子が倒れていたのは、魔法院のすぐ側の路地だった。供の一人も連れていなかったところをみると、城を飛び出したメディアをいつものように迎えにくる途中であったのだろう。メディアがその現場に到着したときには、彼を襲ったグレムリンの姿はすでになかった。

「ロランツ!」

 呼びかけながら、メディアはうつ伏せに倒れたままの彼を引き起こして、膝の上に頭をおいたが、まるで反応がない。

 彼の少女のような繊細さを持つ端麗な顔は、蒼ざめてはいたが、外傷はなさそうだった。呼吸も脈もしっかりしている。ただ意識だけが戻らない。

「ちょっと起きなさいよ。いつまで寝てんのよ」

 乱暴に揺さぶるが、益はない。

「メディア、やめるんだ」

 遅れてやってきたラムルダが、メディアを止めた。

「わからないのか、彼は魔法をかけられたんだ」

「何の魔法を!」

 むきなおってラムルダを問いつめるメディアの緑の目には、不安の色がかいま見えた。ラムルダは静かに、意識のないロランツの側に腰をおろすと、手を王子の額にかざした。サークレットの紫水晶のなかで微妙な光が揺らめいた。

 そして、彼はゆっくりと首を横にふった。