ふとメディアの髪に優しくふれてくる感触がある。はっとして、顔を上げると、そこに不思議そうにメディアを見つめる王子の真っ青な瞳に出会った。
「おはよう、メディア」
「おはようって……」
この状況下で、あまりに気楽げな王子の言葉に、メディアは一瞬唖然としてしまった。
王子の瞳が心配げに曇る。
「どうして、泣いている?」
王子の指が、涙に汚れたメディアの頬にふれようと伸ばされる。それを、とっさに乱暴に払いのけて、メディアは一気に怒りだした。
「だれが! だれが! 泣いているですって!」
彼が目覚めたら、言おうと思っていたことなど、すっかり彼方にすっ飛んでいた。
「いったい、私があんたの不用意な行動のためにどれだけ苦労したと思っているのよ。少しは自覚しなさい、自覚!」
自分のことは大きく棚に放りあげたメディアの際限もなく続きそうな小言を、王子はなぜか楽しそうに聞いていた。
宮廷の貴族の娘たちの思わせぶりなそぶりや、もったいぶった言い回しにいい加減にうんざりしていた彼には、メディアのように歯に衣を着せない直截なもの言いは、むしろ好ましかった。
「ちょっと、ちゃんと聞いてる? もうマヌケでバカでお人好しで、手がかかるたら、ありゃしない。これじゃ、一生目が離せないじゃないの」
そうメディアが思わず本心の一端をのぞかせた瞬間、彼は彼女を自分の胸の中に引きさらった。
「それじゃあ、僕は一生マヌケでバカでお人好しでいるよ。君がずっと僕の側にいるように」
(END)
「おはよう、メディア」
「おはようって……」
この状況下で、あまりに気楽げな王子の言葉に、メディアは一瞬唖然としてしまった。
王子の瞳が心配げに曇る。
「どうして、泣いている?」
王子の指が、涙に汚れたメディアの頬にふれようと伸ばされる。それを、とっさに乱暴に払いのけて、メディアは一気に怒りだした。
「だれが! だれが! 泣いているですって!」
彼が目覚めたら、言おうと思っていたことなど、すっかり彼方にすっ飛んでいた。
「いったい、私があんたの不用意な行動のためにどれだけ苦労したと思っているのよ。少しは自覚しなさい、自覚!」
自分のことは大きく棚に放りあげたメディアの際限もなく続きそうな小言を、王子はなぜか楽しそうに聞いていた。
宮廷の貴族の娘たちの思わせぶりなそぶりや、もったいぶった言い回しにいい加減にうんざりしていた彼には、メディアのように歯に衣を着せない直截なもの言いは、むしろ好ましかった。
「ちょっと、ちゃんと聞いてる? もうマヌケでバカでお人好しで、手がかかるたら、ありゃしない。これじゃ、一生目が離せないじゃないの」
そうメディアが思わず本心の一端をのぞかせた瞬間、彼は彼女を自分の胸の中に引きさらった。
「それじゃあ、僕は一生マヌケでバカでお人好しでいるよ。君がずっと僕の側にいるように」
(END)

