「簡単に言わないでよ、ラムルダ。それじゃあ、私バカみたいじゃない!」

 魔法使いの長の言葉といえども、傍若無人なメディアの前にはその威力を発揮しなかった。

 ラムルダは力なくため息をひとつ漏らした。
 紫の瞳にいくぶん冷ややかな色が浮かぶ。

(バカみたいと言うよりバカだな)

 しかし、さすがにさすがに口に出せない。

「どうでもいいが、気に食わないことがある度にいちいちここに来て文句を言うのは止めてくれないか。魔法院は君の不満を解消するために存在するわけではないんだ」

 嗜めるラムルダの言葉であるが、それもまったく効果を発揮しないどころか、火に油である。

「何いってるのよ。あんたがロランツに私を紹介しさえしなければ、こんなことにはならなかったんじゃないの。愚痴くらい謹んで拝聴してもらいたいものね」

「どういう理屈だよ、メディア。責任転嫁もいい加減にするんだな。だいたい君が後先も考えずに王子に禄でもない報酬を吹っ掛けるからこんなことになったんだろ、自業自得だね」

 さすがにこれは彼女の痛いところを突いた様だった。

「それを言わないでよ」

 メディアは頭を抱えた。

 一月ほど前、ウィルランドを恐怖に陥れた巨大な竜を退治するために、魔法院が王子に紹介したのがメディアだった。だが、彼女は交渉に来た王子が気に食わなかったため、相手が叶えられそうにもない要求を突きつけ、あきらめて帰るように仕向けようとした。
 
 その報酬というのが、よりによってウィルランドの王子妃の座だった。もちろん、始めから王子がその条件を飲むとは思っていなかった。だが、なぜか王子が快く引き受けたためにメディアの思惑は完全に外れ、嫌々ながらも彼と同行して竜退治に赴く羽目に陥ったのだった。

 さすがに竜は手強くて、メディアはその獰猛な生き物を倒すには死力を尽くさねばならなかった。そのどさぐさにまぎれて、王子とメディアは心を通わせあったかのように見えたが、それはあくまで一時的なものに過ぎなかった。