ラムルダが『果ての森』の側の古城にたどり着いたときには、もうすっかり暗くなっていた。

「はあ」

 おもわずため息がついて出る。
 疲れていた。

 それはなにも緊急事態と判断して、大量の魔力を消費するために通常は移動手段として使わない術を使ったせいだけではなかった。

 あの赤ん坊を思わせる外見をしているくせに、妙に油断のならない王の相手は、精神的にずいぶん消耗させられた。

 転移の術が完成した瞬間、背後で聞こえた脳天気なまでに盛大な拍手は、できれば空耳と思いたいほどだった。

(それはそうと)

 気を取り直して、あたりに注意を向ける。
 まず、異様な生臭さが鼻についた。吐き気を催すほど濃厚な臭いだった。腐った肉が焼け焦げたかのような臭い。

 杖に魔法の明かりを灯すと、古城はすでに瓦礫の山と化していることがわかった。しかも、なんだかわからない白い粘液状のものが飛び散っている。どうもこれが臭いの源らしい。

「また、これは派手にやったものだな」

 瓦礫の山のなかから、喘ぐようなうめき声が聞こえた。