「ダメだっ!」

 それは、いつの間にかもっとも近しきものとなった人の声。

 それが彼女を吸魔樹が作り出した幻から、現実に引き戻したのだ。

 気がつくと、あたりは金色の光にに染め上げられていた。彼女の腕の中に抱えこんだ水晶球が放つ目もくらまんばかりに輝かしい光が、その源だった。

 触手どもはその光に怯えるように、彼女のまわりでのたうっている。

(ロランツ、あなたが……)

 魂だけの存在となりながらも、それでも彼は彼女を護ろうとしているかのようだった。
 やがて光は薄らぎ、うごめく触手がふたたび彼女の手足に巻きついてこようとする。

(こいつは!)

 メディアの心中にはげしい怒りの炎が燃え上がった。

(人の心をおもちゃにしてっ!)

 吸魔樹の人の心につけこむ、やり口は絶対に許せなかった。
 メディアは、ロランツの魂の入った水晶球を、もう一度しっかりと胸に抱えなおすと挑戦的に叫んだ。

「そんなに喰いたいのなら、喰わせてあげるわよっ!」

 その言葉と同時に彼女は己の持てる力すべてを解放した。