「今にわかる」

 ヴィゼの瞳の奥にかすかに苦悶の色がほの見えたが、声は感情のこもらない虚ろなものでしかなかった。 

「欲しければ取りに行けばいい」

 しばらくメディアは、無言でヴィゼをにらみ据えていたが、大きくため息をついた。

「わかったわよ」

 これ以上説明を求めても時間の無駄になるだけであることを悟って、メディアはたたきつけるように答え、不気味な光景に目線を転じた。

 ロランツの魂の封じられた水晶球にたどりつくためには、この得体の知れないものの隙間をぬって行かなければならなかった。魔法で焼き払ってやろうかとも考えたが、彼女は自分の魔法をうまく制御できない。王子の魂まで焼き尽くしてしまっては、何もならないのだ。

 とにかく手近なところからよじ登ろうとして手をかけると、柔らかいねっとりとした感触にぎょっとする。よく見ると、それはご丁寧にもびっしりと柔毛がはえ、表面は透明な粘液に覆われている。

「あんた、いい趣味しているわよ」

 精一杯の皮肉を言いながらふりむくと、そこにはすでにヴィゼの姿はなく、背後の扉が閉まるのが見えた。

 その程度の扉一枚で閉じこめられるメディアでもないが、その事実は彼女をますます不安にした。

(速くすませて帰ろうっと。まったく、あのヴィゼの奴、悪戯にしても度が過ぎすぎる。あとで思い知らせてやるんだから)