「やあ、速かったですね」

 城門の前にその当の本人が待っていた。
 短く切った栗色の髪に琥珀色の瞳。年齢的には、ラムルダとそう変わらないはずのこの青年は、一年前に彼女が会ったときよりずいぶん老けて見えた。栗色のつややかだった髪にも白髪がちらほらと混ざり、何かが欠落したような空疎な彼の表情が、さらに彼女を不安にさせる。

 しかし、もちろん食ってかかるのはやめなかった。

「速かったですって! いったい、どういうつもりよ? だいたいロランツの魂をどうしようっていうのよ?」

 ヴィゼは静かに微笑した。それは感情のこもらない空疎な笑いであり、ただ顔の表面に張りついているだけのごく薄い仮面のようでもあった。

「別に彼の魂には用はありませんよ。ただ、あなたに来ていただきたかっただけです」

「私はねえ、あなたと遊んでいる暇はないの。とっとと、ロランツの魂、返しなさいよ。じゃなきゃ、命の保証はしないからね」

「恋する乙女の性急さですか?」

 ヴィゼはメディアをからかうように言った。琥珀の瞳にはなんの感情のかけらも映してなどいない空疎なままであったが、メディアはそれにはまったく気づかずに真っ赤になって怒り、一気にまくし立てた。

「だれが、恋する乙女よっ、だれがっ! ロランツには貸しがあるのっ! それをしっかり取り立てるまでは勝手に死んでもらうわけにはいかないのっ! それに目の前であんな人をコケにするようなことされて、このメディア様が黙っていると思ったら、大間違いなんだから!! さっさとロランツの魂返しなさいよ」

「それなら、おいでなさい」

 ヴィゼは相変わらずなんの感慨もなくいうと、身をひるがえして、メディアを城の中に導いた。