「お、青葉チャンえらいねー。考査の勉強中だったかな?」
私の開いた数学の問題集を覗き込む。
全く解けていない白紙が恥ずかしくて閉じようとするも、一足早く支倉さんが奪い取った。
「あっ!」
「もしかして、…数学苦手ー?」
「うぅ…」
顎に手を当て難しそうな表情の支倉さんを見て、軽く落ち込む。
頭悪いとか、思われてるんだろうなぁ。
「ふーん、意外だなぁ。青葉チャン何でもできそうなイメージなのに」
「どこがですか。私なんて…」
「あーはいはい、ネガティブ思考はよくないよ」
人差し指を立てて私の眉に近づける。
思わず、叩き落として、あ、と小さく声を上げた。
「す、すみません…」
「いえいえー。俺のほうこそ、馴れ馴れしくしすぎたかな?」
困った顔で微笑む支倉さんが先生と被る。
年上の男の人は、やっぱりまだ無理だ。
怖い。
だけど、先生のときは不快感なんて感じなかった。
ただ、くすぐったいような、驚いたような。
「やっぱり、そうか」
ぼそり、と。
何気なく呟かれたその言葉が、あまりにも意味深な響きを含んでいるようで。
え、と聞き返したときには、既に何を考えているのか分からない笑顔をうっすらと浮かべていた。


