霞さんや剣さん以外からこんなことをされたことがなくて、頭を撫でるという些細な行為が、私の心中をここまで穏やかにしてくれるなんて知らなかった。


気づいたら、まだ私の頭の上に乗っていた先生の手をギュウ、と強い力で握っていた。


「う、あ…!すみません!」


「あぁ、いや」


ぱっ、と慌てて手を引くと、先生は少し困ったような表情で私を見ていた。


やっぱり、こんな縋るようなこと、私にされても困るよね。


先生に会ってから、自分の行動とか気持ちとか、予測できなくなっているような気がする。


「そういえば本庄、いつの間に内海と仲良くなってたんだ?」


先生は何事もなかったように、デスクに向かう。


そうだ、内海先輩のこともあるんだった。


内海先輩が好きな人、それは私の一番身近な人だった。


常陸園霞。


崎浜高校の理事長。


霞さんを好きな人がいるなんて、考えたことがなかった。


普通に考えれば、霞さんはその辺のモデルなんか目じゃないくらいスタイルもいいし、容姿だって怖いくらい整っているのだから、モテないわけはないのだ。


でも、霞さんの恋愛事情なんて聞いたこともないし、霞さんが男性であることすら最近まで忘れかけていたくらいだ。