「藤島先生にも、迷惑かけちゃった」
「何かあったの?」
ゆかりちゃんは、黒のぴっちりとしたスーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーにかけながら私の方に視線を向けた。
「何が?」
「本庄さんが、自分の体調管理不足で倒れるなんて珍しいから」
「私だって完璧じゃないよ。風邪の一つくらい引くときもあるって」
「そ?」
シャッ、と勢いよく窓のカーテンが開け放たれ、まばゆい陽光に思わず目を閉じた。
ノートパソコンの置かれたデスクの隣、普通の教室にある机の上に立て掛けられた体温計を抜き取る。
「はい。それ計ったら寝てなさい」
「もう大分楽になったんだけど?」
「疲れてるんじゃない。また倒れられても困るもの」
ゆかりちゃんにはバレバレか。
苦笑しながら渡された体温計を脇の間に挟む。
そのまま、上半身を起こして壁に頭を預けた状態で、僅かな時間窓から見える景色に視線を向ける。
ピピピ、と小さく自己主張し始める体温計を抜いて、ベッドの傍らに来ていたゆかりちゃんに渡す。
「7度6分。微熱ってとこね。どっちにしろ、今日体育あるんでしょ?少ししたら、このまま寮に戻る?藤島先生には私から言っておくけど」
「大丈夫だって。寮母さんも旅行でいないって言うし」


