夕日が街を赤く染め上げる頃、美緒は買い物袋を片手に家路へと急いでいた。

「大変!遅くなっちゃった!」

鞄から鍵を取り出して鍵穴に挿し込むと、美緒は鍵を廻して扉を開けた。
その瞬間、美緒の背後を悪寒が駆け抜けた。
誰かに見られている様な感覚に、美緒は怖くなり家の中へと飛び込み素早く扉と鍵を閉めた。

「お帰りなさい、美緒姉。どうかしたの?」

リビングから出て来た弟の里緒がそう言うと、荒い呼吸をする美緒の顔を心配そうに覗き込んだ。

「……大丈夫。遅くなってごめんね?」

そう言い笑みを浮かべた美緒は、里緒の頭を優しく撫でてやった。

買い物袋を机に置いて、夕日が差し込む窓にカーテンをかける。
そしてゆっくり深呼吸を繰り返すうちに、美緒の気持ちは大部落ち着いた。

「(なんだったんだろう…。)」

鋭く刺す様な視線。
美緒はそんな視線を、家に入る前に感じていた。

「忘れよう!今日は里緒の誕生日だもん。」

首を横に振って、美緒は気味の悪い視線を忘れることにした。

「里緒ー、お父さん達まだぁ?」

美緒はリビングのソファに腰掛け、テレビゲームをする里緒にそう問う。

「まーだぁ。」

テレビから目を離さずに里緒が答える。

「ちゃんと宿題したぁ?」

呆れた様に美緒が言うと、里緒は両手で耳を塞いでしまった。