君に幸せの唄を奏でよう。




「ただいま」


練習も終わり、あたしは家に帰って来た。

「唄希さん、お帰りなさい。お邪魔してます」

リビングのドアから、髪を緩く二つ結びした女の子が顔を出す。

「智香!来てたの?」

大きな瞳で、くるっと癖毛のある笹川 智香【ササカワ チカ】は、音夜の彼女。礼儀正しくて、音夜にはもったいないぐらいのいい子。

「これよかったらみんなで食べて下さい」

智香そう言いながら、お菓子が入っている紙袋を渡してくれた。

「気を使わなくてもいいのに、いつもありがとうね」

家に遊びにぐるたび、いつも手土産を用意してくれる。それがいつも申し訳なく感じる。

「こちらこそ、いつもお世話になっているので唄希さんたちにお礼をしたいんです」

な…なんていい子なのッ!佳奈や智香といい、あたしの周りには、いい子ばかり!

「こちらこそ、生意気な弟がいつもお世話に「だーれが、生意気な弟だって?」

リビングから不機嫌な顔をした弟が出てきた。

あたしと同じ茶髪で短髪の髪の高橋 音夜【タカハシ オトヤ】は、生意気な中学2年生。

「あら?間違った事言った?」
「大間違いだ。性格のいいの間違いだろ。アホ唄希」

お父さん譲りの黒の瞳があたしを睨みつけながら、自分が性格がいいとハッキリ言う。

「年長者に対してアホって言うなッ!」

ムカつく~!本当に生意気ッ!

「音夜くん、そんな事言っちゃ駄目だよ」
「智香。こいつに気を使う事はねぇよ」

音夜は、あたしに親指を向けながら言った。

「あんたは何様よ!」
「俺様」

よーし。シバいちゃお。てっ、落ち着けあたし!大人の対応をするのよ!

いつもいつも、音夜の挑発に乗ってしまうからこそ、自分自身を落ち着かせる為に深呼吸をする。

「いいな~」

智香が突然、あたしを見ながら話す。あたしと音夜は、智香の突然の発言に意味が分からなかった。

「智香も唄希ちゃんみたいに髪切ろうかな」


智香は、自分の髪を弄りながら言った。