君に幸せの唄を奏でよう。




『小学校から周りの奴らは“お金持ち”って言う理由で浩平に寄ってきては、奢らせようとしてきたらしいんだ。だから、浩平は“お金持ち”って言われるのを嫌がるんだ』

この理由を浩ちゃんに内緒で聞いてしまって罪悪感を感じた。

今のあたしは、浩ちゃんに何も言えず、浩ちゃんの背中を見る事も出来なかった。

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あたし達は、地下室の防音室に入って、ライブのスタンバイの準備をする。

「とりあえず、今日は曲弾いて確認しよ」

浩ちゃんの言葉に皆が頷いて、自分が使う楽器の準備をし始めた。

「浩ちゃんの家のキーボードは、いつ弾いてもいいね」

佳奈は、キーボードの調律をしながら浩ちゃんに言う。

「昔、兄貴がやってたからな。兄貴は、楽器選びの天才だから質がいいんだよ」

浩ちゃんは佳奈と楽しそうに話ながら、ドラムのセッティングをして答えた。

まだ怒ってるかな…。

あたしは、家から持ってきたアコギのチューニングをしながら浩ちゃんの様子を伺う。

「じゃあ、やるか。相原、楽譜出して」

亮太も自分の曲を取り出して、佳奈の曲と一緒に配ってくれた。亮太が私の所に来て、楽譜を渡してくれた。

「唄希。今は、集中しろ」

亮太は、あたしに曲を渡しながら小声で話す。

「俺は、いつも元気なお前をイメージして曲を作ってる。だから、いつものお前が歌わないと始まらないんだよ」

亮太は、あたしを元気づける様に言ってくれた。

「……うん!」

そうよ。今は、切り替えなきゃっ!

あたしは、亮太と佳奈が作ってきた楽譜に目を通して頭にたたき込む。目を閉じて、曲のイメージを固めてから鼻歌を歌う。

「唄希。いけるか?」
「うん。いつでもいけるよ」

亮太の言葉を聞いて、ギターストラップを肩に掛けて準備を整えた。足でリズムをとって、大きく息を吸い込む。

「じゃあ、いくぞ。1・2・3!」

亮太の掛け声で、あたし達は演奏を始める。