「……か………し」

あれ?何か聞こえる?

「……た……はし」

どこかで、聞いたことがある声…。

「いい加減に起きろッ!高橋ーーッ!!」
「痛ッ!」

頭に鋭い痛みを感じて共に目を覚ます。目の前には、整えられた短い顎ひげを生やした大ッ嫌いな先生が、教科書を丸めて仁王立ちをしていた。

頭が痛いのは、おそらく先生が持っている教科書で叩かれたのが原因。

「お前は、いつもいつも俺の授業で寝やがって!」

【鈴木 伸一郎 スズキ シンイチロ】先生は、あたし達の担任の先生でもあり日本史の先生。まさに、その先生の授業中だったのを思い出す。自分が何をしてしまったのか分かった途端、全身の血の気が引いていく。

また寝ちゃった…。

「お前は、いつから俺の授業を昼寝タイムに使うほど、偉くなったんだ?ん?」

先生は般若のように恐ろしい表情で、あたしを見下ろす。

絶体絶命のピーンチ!あたしは、起きたばかりの脳をフル回転し言い訳を考えた。

「ほ、ほら先生。ご飯食べたらお腹一杯になって眠くなるじゃないですか。子供は、寝て育つって言うじゃない「俺が聞いているのは、そんなことじゃないいぃぃぃ!」

先生は怒鳴りながら、あたしの言葉を遮った。

うわぁ…。今日は、一段と機嫌が悪いな…。起きたばかりのあたしでも、それは確認できた。

「普通は、先に謝るべきだろがぁ!!俺の授業=昼寝タイムにするな!」

ですよね…。言い返す言葉はありません。

「なにが寝る子は育つだ。今時の高校生が、そんな言い訳をするなぁ!!」

その瞬間、クラスにドッと笑いが起き、みんなに注目され笑われる。

うっ…確かに、今思えば、恥ずかしい言い訳だった。

「…と、説教をしたい所だが今日の所は許してやる」

先生は、はぁ…と小さく溜息をつきて呆れる。

「さっすが!先生やっさしい!」

まだ、呆れながら言われたから助かった…。いつもなら、5問連続当てられる恐怖の問題を出題されるから、それが無いだけでも嬉しい。

「ただし、お前には課題を出す」
「えッ?!何で出すんですか?!」

許すって言ったくせに………見直して損したっ!

「俺の授業で寝たんだ。まぁ、これぐらいで済むんだ事に感謝しろよ」

先生のケチ!鬼ッ!て言いたかったけど、これ以上酷い目に遭いたくないから、心の中で叫ぶしかなかった。ちょうど、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「今日の授業はここまで。高橋、放課後職員室に来いよ」
「はぁ~い」

やる気のない返事をしたせいで、先生が無言であたしを睨みつける。

「はいッ!放課後、職員室に行かせて頂きますッ!」

てか、怖ッ!お願いだから無言で睨まないでよ!

「絶対に来いよ」と、睨みを効かせながら先生は教室を出ていった。

「お前には、学習能力がないのか?」

突然、背後から声をかけられたから体がびくっと反応する。慌てて後ろに振り向くと、少し機嫌が悪そうな表情をする短髪の亮太がいた。

「ビックリするじゃない!亮太!」
「ボケッとしている方が悪いんだろ」

【篠原 亮太 シノハラ リョウタ】は、小学校から一緒の幼なじみ。

「別に、亮太には関係ないでしょっ!」
「おおありだ。放課後、ライブの打ち合わせするだろ?まだ曲も決まってないのに」

うッ…確かに………。痛いところ突かれ、亮太の言葉が胸に刺さる。