「相原、大丈夫?」

「う、うん。ねぇ、浩ちゃん……」

浩ちゃんの言葉を聞いて、はっと現実に戻る。そして、浩ちゃんにあることを訪ねようとしたけど声が震えて------

「あ、明日の集まりは、いつも通りにしても大丈夫かな?その、唄希ちゃん達が気まずくなったりしないかな」

本当は、浩ちゃんは唄ちゃんの事が好きなんでしょ?

私は知ってるよ。いつも唄希ちゃんの話をしている時はとても楽しそうで、理科の実験の時に、唄希ちゃんの髪を「綺麗だ」って愛おしそうな瞳で話していた。

それに、唄希ちゃんの知り合いの人に誘われて花火をした時に、突然浩ちゃんが唄希ちゃんを呼び出した。

2人は、離れた場所で花火をしていたけど、花火の明るい光で見えてしまった。滅多に笑わない浩ちゃんが、安心した様に優しい笑みを浮かべていた。

なんで浩ちゃんの隣に居るのが私じゃなくて、唄希ちゃんなんだろうって。ドロドロした黒い感情で、2人を見続けてしまって、凄く後悔した。

なのに、自分の気持ちを隠して、ずっと前から亮太くんの事を応援し続けて苦しくなかったの?

でも、聞けなかった。浩ちゃんの本当の気持ちを知ってしまうのが、怖くなって逃げてしまった。

「実は僕もそう思ってたんだ。だから、集まりを今週の金曜日に変更しようと思って、相原に電話したんだ。相原は大丈夫かな?」

「うん。大丈夫だよ」

浩ちゃんは、相変わらず何事も無かったかのように話を続ける。だから、私も平常心をよそって頑張って答えた。

「良かった。2人には僕から伝えておくね。じゃあ、また金曜日に」
「うん。じゃあ、またね」

電話を切って、その場に立ちすくんだ。電話の繋がってない無機質な音が部屋に響く。

亮太くんが、唄希ちゃんの事を好きなのは気づいていた。だから、心の底から応援してた。浩ちゃんが、唄希ちゃんの事を好きって気づくまでは。

その気持ちに気づいた時から、唄希ちゃんと浩ちゃんがは楽しそうに話す姿を見て、苦しくて寂しい気持ちで見ていた。

そんな2人の姿を見て、唄希ちゃんも浩ちゃんの事が好きかもしれないと考えた。

だから私は、一瞬だけ亮太くんと唄希ちゃんが付き合ってくれれば良かったのにって思ってしまった。

浩ちゃんは、今でも亮太くんの事を応援している。だけど、浩ちゃんの気持ちを考えると亮太くんの応援が出来ない。浩ちゃんと唄希ちゃんが付き合うのも応援が出来ない。

亮太くんも、浩ちゃんも、唄希ちゃんも、私にとって大切な人達。なのに、私は浩ちゃんが好きっていう気持ちを優先してしまう。

私は、どうしたらいいんだろう……。

ふと机の上を見ると、ラッピングしたクッキーが目に入った。

そういえば、明日みんなに会えないから、このクッキーあげられない。もったいないから食べなくちゃ……。

考えるのをやめて、ラッピングした袋からクッキーを取り出して食べる。

「あれ、おかしいな………」

さっきまで、甘かったはずのクッキーがとても苦く感じた。