【佳奈 Side】


まだ焼けないかな……。


そわそわしながら、オーブンレンジの中を何度も覗く。だけど、まだ焼き色が付いて無くてがっかりする。


今日は練習がお休み。久しぶりにお菓子作りがしたくて、クッキーを焼くことにした。もう一度、オーブンレンジの中を覗いて見ると、クッキー全体にこんがり焼き色が付いている。


綺麗に焼き上がって、オーブンレンジからトレイを取り出す。こんがりと焼けたメープルクッキーの甘い匂いがキッチン中に広がる。


美味しそうな匂いにつられて、トレイから一枚だけクッキーを取り出して味見をする。


「おいしい~!」


あまりにもの美味しさに、独り言を言ってしまった自分が恥ずかしくなった。


でも、これだったらみんな喜んでくれるよね。それに、浩ちゃんも……。


皆の喜ぶ顔が早く見たくて、引き出しからラッピング様のリボンと袋を取りだして分ける。


「♪~♪~♪」


分け終わったのと同時に、リビングに置いてあった携帯電話が鳴り響く。相手が誰なのか確認をしないまま、携帯電話の通話ボタンを慌てて押した。


「はい。もしもし?」

「もしもし?相原」

「こ、こ、こ浩ちゃん?!」


浩ちゃんからの突然の電話に、驚いて大きな声を出してしまう。


「驚きすぎだよ」


電話越しから、浩ちゃんが小さく笑う。


「つ、つい、驚いちゃって。今日はどうしたの?」


自分の行動がおかしかったのが恥ずかしくて、カァァと体の体温が上がる。そのせいで、声が少しだけ裏返ってしまった。


浩ちゃんから、初めて電話が掛かってきた。嬉しい気持ちと緊張が混じって、心臓の音が速くなる。


「実は昨日、亮太に借りていた漫画を返しに行ったんだ」

「う、うん?」

「で、いつもと様子がおかしくて聞いたら、亮太のやつ高橋に告白してたんだ」


え?今、なんて言ったの------?


耳鳴りでもなったかの様に、ザァァとノイズが走っている感覚になる。


亮太くんが、唄希ちゃんに告白した―――?私、唄ちゃんから何も聞いてない……。


やっと受け入れた言葉は、とても苦しくてドクンドクンと心臓の鼓動を速める。


「だけど、ダメだったらしい……。僕は、亮太の事をずっと応援してたから、今の亮太を見てられないよ」


「え、ちょっと待って」


浩ちゃんがさらりと話すから、どんどん混乱して頭が追いつかない。浩ちゃんの話し方はまるで、“亮太くんと唄希ちゃんが付き合ったらいいのに”って聞こえる。


浩ちゃんは、亮太くんの気持ちを知りながらも応援してたの?


だって、浩ちゃんは________。