君に幸せの唄を奏でよう。




でも、今日橘 奏と一緒に居て気付いたことがあった。


やっぱり、今日の橘 奏は今までの橘 奏とは違った。じゃあ、今まで会った橘 奏は、ほんの一部だったのかな?


……ううん、違う。きっと今まで会った橘 奏は、“歌を憎んでる橘 奏”だったと思う。

じゃあ、今日会った橘 奏は、歌を憎む前の“本来の姿の橘 奏”だったのかな?


見つからない答えを、ひたすら考え続けたせいで、頭の中かが混乱してくる。 でも、違う答えはハッキリと分かっていた。


あたしは、橘 奏が好き。この気持ちに気付けて、後悔なんかしてない。


だけど、その反面とても怖い。


もし、この想いを告げてしまったら、橘 奏に否定をされてしまうんじゃないかって怖い。


だって、橘 奏の中であたしは、憎いモノを持った存在。だからきっと、初めて会った時に、あたしの事を“憎い歌をうたう女“だって思ってたはず。


でも、あたしの歌は、憎くないって言ってくれた。それが、どんなに嬉しくて救いだったか……。


『俺が、聴きたかったから聴いた。無理はしてないし、俺自身が望んだことなんだ』


そして、今日は橘 奏が自分から歌を聴いた。自分が望んだ事だからって。


こんな日が来るとは、思っても見なかったから。あたしが、その瞬間に遭遇する事さえ拒否されると思っていたから、嬉しくて泣いてしまった。


『ありがとう言うのは、俺の方だ。高橋のお陰で、歌を聴くことが出来た。だから、俺なりにいろいろと頑張ってみようと思うんだ』


その言葉は、あたしが何らかの形で橘 奏の背中を前に押したって事だよね?


じゃあ、今のあたしは橘 奏にとってどんな存在なのかな?あたしは、期待をしてもいいのかな?


ただ、あたしが望む真実(こたえ)が希望かもしれないし、絶望かもしれない。真実を確かめるのが怖い反面、確かめたい気持ちも同じぐらいに強い。


ただ、見えない真実に不安を抱いたまま、夜の闇に包まれたトンネルを見続けた――――。