君に幸せの唄を奏でよう。




バスが、次のバス停に止まる。さっき、乗ってきた家族が降りて、また2人きりになった。


「次は、○○」


ついに、アナウンスがあたしの目的を告げる。それと同時に、橘 奏がボタンを押してくれた。ボタンから手を離して、じっとあたしを見つめていた。


「高橋」


優しく名前を呼ばれながら、ポンポンと頭を撫でられる。あまりにも、優しい声で呼ばれて、何故か胸が苦しくなって泣きたくなった。


「何かあったら、いつでも俺に連絡して来い。どんなに小さな事でも、しっかり聞くから。だからもう、一人で抱え込むなよ」


橘 奏の優しさが伝わってきて、嬉しくてポワポワとした気持ちになった。このまま、何処かへ飛んで行ってしまいそうになるぐらい嬉しい。


「うん!」


あたしが力強く頷いたのと同時に、バスが目的に着く。バシュと扉が開く音が、別れを告げる合図に聞こえた。


「じゃあな。気をつけて帰れよ」


その言葉と共に、あたしの頭から橘 奏の温もりが無くなった。少し寂しいけど、もう会えないわけじゃない。だから、最後は元気に伝えなくちゃ!


「今日は、本当にありがとう。おやすみなさい!」


あたしの別れの言葉に、橘 奏はただ優しく微笑み返してくれた。


バスから外に出ると、外は暗くなっていて少しひんやりとした風が体を包む。ふと空を見上げれば、綺麗な星がいくつも輝いていた。


しばらくしてから、バスが動き出した。最後に手を振ろうと構えていたら、橘 奏と目が合って軽く手を振ってくれた。


あたしは、それが嬉しくて笑顔で手を振る。橘 奏を乗せたバスは、だんだんと小さくなってトンネルの向こうへと消えていった。



今日は、いろいろあったな……。佐藤先輩に会った事。橘 奏が、佐藤先輩からあたしを助けてくれた事。そして、自分の弱さと気持ちに気付けた事。


橘 奏のお陰で、やっと自分の弱さと向き合えた。橘 奏の優しさで、あたしが亮太達を守りたかった想いは、自己満足じゃないって気がつけた。そして亮太達に、いつか真実を話すという覚悟も出来た。


それと、橘 奏の事が好きって気付くことも出来た。次に亮太に会った時は、きちんと気持ちを伝えられる。もう、これ以上ズルズルと亮太を傷付けたくない。


だから、伝えなくちゃ。あたしは、橘 奏が好きって----。