君に幸せの唄を奏でよう。




「どうした?」


あたしの様子が、おかしい事に気がついた橘 奏が心配そうに見つめる。


今は、さっきと違って狭いベンチで肩と肩がくっつきそうな距離で座っている。だから、あまりにも近すぎて、恥ずかしくて逃げたい気持ちになる。


「だ、大丈夫。何でもないわ。それにしても、熱いな。早くバスが来ないかな」


「もう、少ししたら来るだろう。あとちょっとの我慢だな」


なんとか言葉を出す事が出来たけど、あまりにも動揺し過ぎて大きな花束を抱えている両手に力が入って、ビニールの包装紙が少しクシャと音を立てる。


その音を聞いて、向日葵が潰れていないかと慌てて確認をする。向日葵は無事で、ホッと安心して胸をなで下ろす。


橘 奏の方を振り向くと、目が合ってしまい、慌てて逸らしてしまった。


何故、逸らしてしまったのか分からないけど、どうしたらいいのか分からなくなって大きな向日葵を見つめた。


意識をしたら、ドキドキして冷静で居られなくなる。あたしだけが、橘 奏の事を意識しているから、素っ気ない態度を取ってしまう……。


「高橋、バスが来たぞ」


橘 奏の声を聞いて、現実に戻る。あたし達がバスに乗り込むと、中は少しだけ冷房が効いていて、あたし達以外のお客さんは居ない。なんだか、貸し切りをしている様な気分になった。


あたし達は、後ろから2番目の席を選んだ。橘 奏よりも先に降りるので、窓際に座ってもらった。その横をあたしが座る。


少し落ち着いたから、ハットを取る。頭に少しだけ、冷房の風が当たって涼しい。


「高橋は、何処で降りるんだ?」

「○○○に降りるわ」

「俺の3つ前か、結構遠いんだな」

「うん。いつも、街までは自転車で50分掛かるの」

話の途中で、「発進します」と運転手さんのアナウンスが聞こえ、バスはゆっくりと動き出した。初めて、橘 奏と同じ席でバスに乗れてとても嬉しい反面、少し寂しい。


橘 奏と一緒に居られるのは、残りわずか。このバスが、あたしの目的地に着いたらお別れ。それが、永遠のお別れじゃないのは分かってる。だけど、寂しいという感情で胸が一杯になる。


そんな事を考えていたら、左頬に少しだけ熱を感じて窓の外を見る。夕日の日差しが、少しだけ窓から差し込んでいた。


日が沈むのが遅くて、今さらながらも本当に夏なんだなって実感をする。橘 奏も日差しが当たって熱くないのかな?


話しかけようとした時、目の前の光景に見とれてしまう。橘 奏のすらっとした鼻や整った唇、きりっとした切れ目を引き立たせるように日が差し込んでいた。


やっぱり格好いいなって見とれていたら、あたしの視線に気がついて振り向く。


「なんだ?」


「ううん。なんでもない」


橘 奏の顔をずっと見ていた事に、恥ずかしくなって誤魔化す。