さっきのどういう意味なんだろう……。あたしのお陰って言ってたけど、あたしは何をしたんだろう?
もしかして、これはあたしの妄想かもしれないけど、何らかの形であたしが橘 奏の背中を押したから、歌と向き合うことが出来たのかな。
なんか、さっきから自分に都合の良いことばかりを考えているような……。あたしは、何を期待してるんだろう。
ふと、あたしの手首を掴んでいる橘 奏の大きな手が目に入る。さっきまで考えごとをしていたから気がつかなかったけど、触れらている箇所が熱があるみたいで熱い。おまけに、トクン、トクンと胸が高鳴る。
だけど、佐藤先輩から助けてくれた時みたいに、手を繋いでいないから少し寂しくて、胸にチクっと小さな痛みを感じる。
やっぱり、今日のあたしは何処か可笑しい。橘 奏と居ると、ドキドキして息苦しくなったり、手を繋ぎたいって強く思ったり、温かくてふわふわとした気持ちになる。
2人で居ると、もっと一緒に居たいという気持ちが大きくなっていく。
弱い自分を見せたから?ううん、違う。何か違う様な気がする。いろいろ考えていると、橘 奏の大きな背中が目に入る。
そう言えば、今日の橘 奏は何処か違う。何て言うかこう……俺に近づくなオーラが無くなって、柔らかくなった様な。それに、いつもより笑ったり微笑んだりとかして、柔らかくなっていた。
可愛い所見つけたから?橘 奏の優しさに触れたから?それとも、歌を聴いてくれたから?
このモヤモヤを解決するために、橘 奏とのやりとりを一から思い出す。そして、全ての謎が解けたとき、胸のモヤモヤがすぅと無くなった。
今までのあたしは橘 奏と話すたび、“これじゃあまるで好きみたいじゃあない!”って自分を叱ってた。
だけど本当は、“好きみたい!”じゃなしに、好きなんだ。今までのあたしは、自分の気持ちに気付かぬふりをして、逃げて誤魔化していた。今までの過去の様に。
でも、もう逃げて誤魔化すのを止めて現実を受け止めたから、その気持ちも知らないうちに受け止めていたんだ。
だって今日のあたしは、これじゃまるで好きみたいじゃあない!って、一つも思わなかった。もう、好きって気持ちになってたからだ。
やっと、自分の気持ちに気付けた。あたし、橘 奏が好きなんだ---。
だから、橘 奏を見る視線が変わってたんだ。今までは、歌を憎んでいるって視線で見てたけど、今はもう一人の男の人として見ているんだ。
だから、こんにも橘 奏にドキドキするんだ。離れたくないって思うんだ。
いつから、好きになったのかは分からないけど、キッカケは『お前の歌を聴いてると、不愉快になる』って、言われた時からだと思う。
あたしの歌を不愉快とか言って笑ったのに、何処か悲しそうな表情をしていた。まるで、迷子になったみたいで---。
その時から、気になってた。最初はあんな事を言われてムカついたけど、本当に橘 奏の事が嫌いなら無視して考えなかったらいい。
だけど、あたしは考えてしまった。橘 奏の事が気になって仕方なかった。その時は、きっとまだ興味本位だったと思う。
ナンパから、助けてくれた時は驚いた。相変わらず仏頂面なのに、してる事と言っている事が矛盾してて少し可笑しかった。それに、お礼に付き合ってくれた橘 奏の優しさに気付いた。
ナンパ達に襲われた時、怪我をしてまで、あたし達を助けようと一人で戦ってくれた。電話で、あたしを安心させようと抜糸をした事を伝えてくれた。
声だけの会話に、少し寂しく感じた。そして、橘 奏の文化祭に行きたいと思った。だけど、それは口実で、本当は橘 奏に会いに行きたかった。
短い間の電話に、寂しくて胸が痛くなった。それと、もっと橘 奏に近づきたいって強く思った。
あたしの歌が不愉快じゃないって謝まってくれた時は、凄く嬉しくて安心した。橘 奏にとって憎いモノを持っているのに、あたしの歌を受け入れてくれて嬉しかった。
そして、橘 奏の心と悲しみに触れられた気がした。橘 奏の心は、想像をしていた以上にも傷付いていた。歌を憎んでても、もっと橘 奏を知りたいと強く思った。もう、その時から興味本位はなくて、心の底からそう思った。
そして今日、橘 奏が自ら音楽を聴いてくれて、嬉しくて嬉しくて胸が一杯になる。自分の事のように嬉しかった。
いつもはクールだけど、不器用な優しさがあって、他人から誤解されやすくて、相手が誰でも困っている人はほっとけない人。
こんなにも、惹かれてたんだ---。自分が変わってしまう程、橘 奏のことが好きなんだ---。

