君に幸せの唄を奏でよう。




本屋に到着したあたし達は、自分達が見たい所を廻るため別行動をした。あたしは、好きな漫画の新刊が出てないかをチャックしに行ったけど、発売は1ヶ月後だと分かり残念。


見る物もないから、ファッション雑誌でも読んでみようかな……。


仕方なく雑誌コーナーに向かこうとした途中で、聞き慣れた曲が耳に入って来る。慌てて音のする方に振り向くと、CDショップの中であたしの大好きなアーティストRAID(ライド)のアルバムのPVが流れていた。


うそ……。今日って、発売日なの?!


瞬時にその場に駆け寄り、試聴用のヘッドフォンを耳に付ける。ヘッドフォンから流れてくる曲に胸を打たれる。


やっぱり、RAIDの曲って格好いいな。このグループは、あたし達と同じバンド形式。だから、いつもRAIDのライブPVを皆と見て勉強している。


音楽を聴きながらPVを見ていると、テレビの画面の端にデビュー15周年と表示されていた。


RAIDって凄いな。15年も音楽の世界で活躍して。しかも、バンドメンバーは全員幼なじみ。凄く羨ましいし、尊敬する。いつか、あたし達もデビューして15年以上音楽を続けられたらいいな。


って、この音楽バカぁぁぁ!


我に返り、急いでヘッドフォンを外して元に戻す。


今の状況を考えてみなさいよ!歌を憎んでる橘 奏と一緒に来ている。こんな所で、聞いてたら、空気をぶち壊しちゃうじゃない!見つかる前に戻ろう---?!


急いでCDショップから出ようとしたけど、あたしの体はピキーンと石のように固まり動けなくなった。すでに、時は遅くCDショップの入り口に立つ橘 奏と目が合う。

何故か、無表情であたしを見つめる。


「こ、これは違うの。あの、なんか映像が流れてたから、何だろうなって気になって見てて」


ダメだ。ヘッドフォンを付けてた理由が思いつかない!時間よ、5分前に戻って!


アタフタしていると、橘 奏は無表情のままこっちに向かって来た。


怒られる……!


そう思っていたけど、怒られるどころかすぅとあたしの横を通り過ぎてしまった。


驚いて目で追うと、先ほどあたしが聴いてた試聴用のヘッドフォンを手に取り、間を置いてから耳に付けた。


え、ええええーーーッ?!あ、あの橘 奏が音楽を聴いてる……!


まさかの行動に、心の中で叫ぶ。今、ヘッドフォンを付けて音楽を聴いている橘 奏の姿が信じられなかった。


しばらくしてから、橘 奏はヘッドフォンを外して、クルっとあたしの方に振り向く。


「……高橋。RAIDが好きなのか?」


「え?う、うん」


唐突な質問にぎこちなく返すと、普段の橘 奏から想像もしなかった言葉を耳にする。


「俺もRAIDが好きだ」


橘 奏がRAIDを好きって言った?!


その一言を聞いて、雷に打たれたような強い衝撃を受けた。そのせいで、頭の中がパニックになる。


待て待て、少し落ち着こうか。とりあえず深呼吸をして、まずは橘 奏の様子を見よう。


橘 奏はいつも通りで、特に無理をして音楽を聞いた様子でもない。ましてや、さっきみたいにあたしに気を遣っているわけでもない。