男の人は、あたしに何かを言う訳でもなく黙りこんだまま。一向に話す気配がしない。

どうしよ、気まずいーー!この空気をなんとかしないと!

「う、歌っていいですよね。あたしの歌、どうでしたか?」

どう切り出したらいいのか、分からなくて、恥ずかしがりながらも勇気をもって男の人に尋ねた。

すると、男の人はしっかりとあたしを見つめながら口を開いた。

「歌か……。歌なんか大ッ嫌いだけど」

え……?今なんて言ったの?

予想外の答えに訳がわからなくなって、頭が追いつかない。ただ、呆然と男を見つめることしか出来なかった。

「……あ、感想だっけ?お前の歌を聴いていると、不愉快になる」

男が、あたしを見て嘲笑う。その言葉と笑顔に、頭の中が真っ白になる。そして、気がついた時には―――。

「それに……おゎッ!!」

男が言いかけたのを無視して、浅瀬に突き落としていた。

「なにすん「もういっぺん言ってみなさいよ……」

男を睨みつけながら言う。男は、あたしの行動に驚いて何も言えない状態だった。

「あたしの歌が不愉快だって、もういっぺん言ってみなさいよッ!!」

静かな河原に、あたしの声が酷く響き渡る。

昔、お母さんに『唄希の歌を聞いていると、幸せな気分になるの』って言ってくれた。

お母さん以外にもお父さん、音夜、亮太たち、ライヴのお客さんも言ってくれた。

それなのに、今見ず知らずの男から『不愉快だ』と、言われてものすごく頭にきた。

男は浅瀬から起き上がり、あたしと少し距離を置き前に立つ。

「お前が聞いてきたんだろ。自分の歌は、どうだったって」
「……ッ!」
「だから、俺はそれに答えただけだ」

男は冷たい目であたしを見つめ、低い声で坦々とそして無表情で言う。

確かに、この男の言う通り。何一つ間違っていない。だからこそ―――。

「じゃあ、何であたしの歌を聴いたのよ!?」

男の行動に疑問を感じて、それが頭にひっかかってた。

「不愉快と思うのなら、あたしの歌を聴かないで帰ったらよかったのに!」
「………」

あたしの言葉に、何も言い返せれないのか男は黙りこむ。

「なんとか言いなさいよ!」
「…………」

あたしは、中々答えてくれない男に苛立った。

「……もういいわよ。聞いたあたしがバカだったッ!」

男に問いかけ続けた自分にも、腹が立つ。