「悪い。聞き過ぎた」
突然、橘 奏は申し訳なさそうな表情で謝る。そして、橘 奏は悪くないのに謝らせてしまった…。
「無理に話さなくていい。誰にだって、言いたくない事はあるしな」
そんな、あたしを見て、橘 奏は目を伏せながら、遠くを見つめる瞳で話す。
あたしは知ってる。橘 奏の言いたくない過去(こと)を。なのに、橘 奏は勇気を振り絞って、あたしに少しずつ話してくれた。
それに比べて、あたしは話してない。亮太たちが心配してくれた時も、ごまかして笑顔で答えて逃げて。ただ、その繰り返しをして。そして、橘 奏にも…。卑怯者じゃん、あたし。
「だけど、あの男が気になるな…。昔、高橋と何があったのか知らないけど、危ない感じがする…。なんかあったら、いつでも俺を呼べ。助けに行く」
橘 奏は少し険しい表情をして、真っ直ぐな瞳であたしを見るから、罪悪感を抱く。
「ありがとう。だけど、大丈夫だから」
「ダメだ。お前が大丈夫でも、俺が心配なんだよ」
また、心配な表情をさせてしまった。
何やってるんだろう…。余計な心配をかけさせちゃって。あたしが話さないから、話が大事(おおごと)になっちゃった…。
このままじゃダメ!橘 奏に、これ以上心配させるのも、守ってもらうのも…!話さなきゃ!
そう思うと、緊張してしまい、心臓の鼓動が速くなる。自分を落ち着かせて、深呼吸をして腹をくくる。
「あ、あのね!少し長くなるけど…話しを聞いてもらえるかな?」
勇気を振り絞って言ったあたしを見て、橘 奏は少し驚いた表情をしたけど、すぐに柔らかな笑顔を浮かべて頷いてくれた。

