さっきから、橘 奏に握られている手が熱い。
橘 奏の大きな手は、温かくて、優しさが伝わってくる。
それが伝わってくるたびに、心臓の鼓動が速くなっているのが分かる。
そのせいで、胸が苦しくて、何故か切なくて。だけど、嫌じゃない。このまま、ずっと繋いでいたいという気持ちになる。
そんな事を考えていると、突然、橘 奏が立ち止まった。あたしは不思議に思い、辺りを見渡す。いつの間にか、さっきの場所から遠くに離れた、もう一つの休憩場に居た。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
そう言いながら手を離し、ベンチに腰を掛ける。それと同時に、寂しい気持ちになって、胸にチクッと痛みが走る。
その痛みが、手を放された事に対してだって分かったけど、どうして痛むのか分からない。ただ、その痛みに耐えながら、少し距離をあけて隣に座る。
「大丈夫か?あいつに、何かされたのか?」
心配そうな表情で、ハットの上からポンポンと優しく撫でながら、優しく声をかけてくれた。
その瞬間、胸がキュンとなって、温かい気持ちになる。
「大丈夫。何もされてないわ。助けてくれて、ありがとう」
心配してくれる、橘 奏の優しさが嬉しかった。これ以上、心配をかけたくないから笑顔で言う。
だけど、橘 奏は真剣な表情で見つめる。
「やっぱり、なんかあったんだろ」
「え?」
橘 奏の言葉を聞き、硬直する。
「大丈夫だって。何もないわ」
笑顔で答えるあたしに、橘 奏は真剣な眼差しをしている。

