「何あんた?高橋ちゃんの彼氏?」
先輩は眉間にしわを寄せて、露骨に嫌そうな表情を橘 奏に向ける。
「彼氏じゃない。ただの知り合いだ。お前の方こそ、高橋のなんだ?」
何故か、橘 奏は不機嫌そうな声で、先輩に言葉を返す。
「俺は、高橋ちゃんの中学の時の先輩。ただの知り合いなら、引っ込んでてくれる?俺たちは遊びに行くんで」
その途端、橘 奏の大きな手が、ハットごとあたしの頭を優しく包み込んだ。
「なら、今から高橋は俺の連れだ。勝手に連れて行くな」
その言葉を聞いて、トクンと心臓が跳ねる。それと同時に、頬がカァと熱くなる。
「は?意味分かんないんだけど」
「離せ」
「は?」
「その手を放せって言っているのが、聞こえないのか?」
橘 奏が低い声を放した瞬間、この場の空気がピシャリと凍り付く。
あまりにもの低さに、ゾクっと全身に鳥肌が立った。先輩は顔を引きつり、掴んでいた手を静かに離してくれた。
あたしの位置から、橘 奏の表情が見えないけど、先輩の態度の変化を見て、よほど恐ろしかったんだろ、と納得する。
「行くぞ」
橘 奏に手を握られて、強引に引っ張られるまま、この場を急いで立ち去る。
だけど、あたしを助けたせいで、橘 奏を傷つけてしまう結果になるとは、知るよしもなかった---。

