君に幸せの唄を奏でよう。




「何を言っているのか分かりません…!」

恐怖の中で、声を絞り出し、先輩を睨み付けるのが精一杯だった。

「まぁ、そうだろね。そんな所も俺は好きだけどね」

離してはくれなかったけど、手首に込められる力が弱まり、先輩がいつもの雰囲気に戻ったから一安心した。

さっきから、先輩の行動と言葉が矛盾しているようで疑問を感じる。一体何をしたいのか分からない。

「だからこそ、他の男にはもったいないな」

そう言いながら、あたしの髪の毛を触る。

「ねぇ、試しに俺と付き合わない?退屈な思いさせないし」

先輩はにこやかに言いながら、あたしの手首を強引に引っ張って、何処かに連れて行こうとする。

「いやッ!」

抵抗して反対方向に体を引っ張るけど、サンダルを履いてるせいで、足に力が入らなくて、ズルズルと先輩の方に引き寄せられる。

もうダメ……!

諦めかけたその時、後ろから誰かに反対の腕を掴まれ、ぐいっと体を引き寄せられた。気がつけば、誰かの腕の中に居た。

誰に助けられたのか気になって顔を見上げると、驚いてボソボソと相手の名前を零した。

「橘…奏…?」
「高橋が嫌がっているだろ。その手を離せ」

気がつけば、あたしは橘 奏の腕の中にいる。

え?!ちょっ!えぇ?!

改めて実感し、頭の中はパニックになる。