【奏 Side】
あいつらが全員、無事に帰った。
後は、俺だけか…。
誰もいない駐車場に、俺は立っていた。
戻るか…。
タクシーが停まった。
車の中から母さんが出てきた。
「奏ッ!」
母さんは、俺に向かって走ってきた。
「母さん……」
少し息切れをしている母さんの姿を見るのが、辛かった。
「ケガは、大丈夫なの?!」
母さんは、切羽詰まった顔で俺に聞いてきた。
「…大丈夫。手術は、成功したから」
俺は、縫った跡を見せながら言った。
「…よかった…。無事で…本当によかった」
目に涙を浮かべながら、俺に言ってきた。
「……ごめん。心配かけて」
俺は、謝った。
「……いいのよ。奏が無事だったから、それだけで」
母さんは、微笑みながら言ってきた。
「帰りましょう」
「あ。ちょっと、待って」
タクシーに戻ろうとした、母さんを引き止めた。
「どうしたの?」
「荷物、バイト先に置いてきた…。帰りに寄っていい?」
「奏、あなたは怪我人なのよ?荷物は、また取りに行けばいいじゃない」
母さんは、反対した。
俺を心配して言ってくれてるのが、分かった。
「…荷物に大事なレポートが入ってるんだ。
それに、バイト服で出てきたままだから、返えさないといけないし」
「…………」
母さんは、黙って俺を見つめる。
「……分かったわ。早く行きましょう」
俺たちは、タクシーに乗り込んだ。